『鷺と雪』 [ミステリー]
北村薫のベッキーさんシリーズ第3弾にして完結編、第141回直木賞受賞作。
「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」の3篇を収録。
シリーズの最後を飾る「鷺と雪」が白眉とも言うべき秀作であることは間違いないが、この1本が、シリーズの1編1編に支えられてここに至っているところに作者の力量を感じる。
思えば、シリーズ1冊目の「街の灯」は、まだのんびりとした時期であり、物語も「わたし」とベッキーさんを対峙させつつ、二人の周囲に目を向けているが、次第にベッキーさんという人の謎が解き明かされ、視線はより周囲に広がり、時代というものにも視線が向く。その拡がりは、上流階級のお嬢様である「わたし」が成長し、しかし悲しいかな時代に巻き込まれていく予感の裏返しでもある。
「鷺と雪」で大きな事件に至る本シリーズであるが、日本という国がその後、どのような時代に突入していくかということを考えると、日本の良き時代を切り取ったこのシリーズは、その時代を後世からいとおしく見ているような感覚があり、そういう意味でもシリーズ通しての作品作りが優れているなあと感嘆する。
★★★★★
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